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マーティス嬢の結婚披露宴。 何時もの宴よりざわめきが大きいのは、令嬢の友人が多いからだけではないようだ。其のざわめきの中心には、滅多にパーティには顔を出さないロシェル・D・バースロブルク伯爵が居た。 伯爵は、財力、権力、地位、穏やかで人当たりの良い性格と全てを持ち合わせていた。しかしながら、彼の人に嫉妬した口さがない者が、魔性呼ばわりしていた其の理由は、珍しい紅紫の瞳ではなく。 乙女でも持ち得ぬような肌触りの白磁の肌、すっと通った鼻筋、何時も笑みを湛えた其の唇は金の國に咲くと謳われる華の如き彩、人より頭半分は高い身長、其の神に愛された者か、反逆者でなければ地上に存在して居ないであろう美貌の所為だったろう。 更に、地上に唯一しか存在しないような美貌も彼の人の祖父、ロアール侯爵にそっくりであると聞かされれば、魔性であると疑いたくなるのも無理は無い。 其の祖父も、其のまた祖父に似ていたと聞く。其の美貌は、受け継がれて居るのだ。隔世遺伝として、代々子孫に、何かの契約をわざと現すかのように。 「ロシェル伯爵、お久しぶりで御座いますわ。五年前にアンデリア嬢の婚約披露宴でお会いしたきりでしたわね」 「こんばんわ、エリザベート嬢。どうやら、私は、婚約と縁があるようですね」 「面白い縁ですわね。そういえば、此処数年、どのパーティにもいらっしゃらない間、何をしていらしたの。誰も、お知りになられないのですもの。気になりますわ」 「ああ、プラハのほうに、少々留学をしていたのです。見解を広めるのも良い修行だと祖父が申しましてね。家の伝統のような物でもあるのですよ」 「へぇ、それは、また。何か面白いものがありましたか」 「奇術師ーーー、というものに会いましたよ。バロア伯爵。驚く事に、魔法を彼らは使うのです、奇術ではなく」 「それは、それは・・・」 「神様がお怒りになるのではないこと?」 扇で、エリザベートが口元を隠し少々恐ろしそうに言う。 「本物ならばね。しかし、奇術と魔術の差など、観客には判らないでしょう。真実とは、誰も知らないからこそ神秘で居られるのですよ」 「ふふん、伯爵は哲学者でいらっしゃる。しかし、面白そうですね。僕も見てみたかったなぁ」 「あら、ファリエール子爵は、その様な物に興味があって?」 からかう様な物言いで、エリザベーと嬢が尋ねる。 「ええ、少しばかり。まぁ、好奇心と紙一重ですよ。エリザベート嬢は、興味はないですか?」 「ふふっ・・あると言えばあるし、無いと言えば御座いませんわ。でも、一度見てみたいものですわね」 「願いも叶えられる者が魔術師と言うのだそうですよ。私が連れてきた者もそうだと面白いのですが」 「ええっ、連れていらっしゃったのですか」 目を剥いてファリエール子爵が聞き返す。 「ええ、あまりに興味深かったので。駄目で元々で契約を持ちかけたら頼る者も居ないと言うし、彼方だけのつもりだったのですが。まぁ、良い余興になるでしょう。皆さん、退屈していらっしゃるみたいですし、ね」 「そうですわね。でも、本当に願いを叶えられるんですの?御伽噺みたいですわ」 伯爵は、唇の端の微笑を更に深く刻み話を切り上げ、この宴の主役であるマーティス嬢の元へと足を向けた。 「相変わらず、不思議な人だね。何処か、人を威圧させる雰囲気がある」 「ロアール侯爵を知っている方もそうおっしゃるの。あれも、遺伝と言う物なのかしら。ねぇ、オルレアン伯爵?」 「遺伝、ね。知っていますか。あの家系に伝わる噂を」 「知りませんよ。何かあの家に伝わる噂などありましたか」 噂や四方山話に関しては、右に出る者は居ないと自他共に認めるアザンクーヌ子爵が瞳を輝かせる。 「そうですね、貴方たちは若いですから。私も叔父に聞いたのですよ。其の噂というのが、あの家系の人々は、老いないのだとか。伯爵も侯爵もたった独りだけ。同じ方が時を違えて、我々の前に姿を現すのだそうです。妻というのも実際は、生贄だと。誰も昨今侯爵夫人を見た者がいないですしね」 「そんな訳、ないでしょう」 微妙に、顔を青ざめさせ周囲に居た人間が呟く。 「もちろんでしょう。そんなこと悪魔と契約しない限りあり得ませんから。あの美貌だからこその噂でしょう。しかし、あり得ない事ではなさそうな気がするのが恐ろしいですね。二人同時にいらっしゃらない事も噂に拍車を掛けるのでしょうか」 そう、ファヂィルーア伯爵は話を締めくくった。流した目線の先には、これほど着飾った人々の中に、大して着飾ってもいないのに一際目立つ伯爵の姿があった。そして、不思議なざわめきを纏ったまま、其の話は閉じられる。 「久しぶりだな、ロシェル。向こうでも色々、やってきたんだってな」 顔を合わせたのは、四年振りだろうか。ちょくちょく訪れていたらしいが都合が合わず、会えなかった。 「お前もだろう?しかし、その無遠慮な性格はどうにかならないのか」 たいそう目立つ二人が並んでいるのに誰も気に留めない。 貴腐酒を通りすがりのボーイに頼むと、二人はバルコニーへと向かう。相手の男に闇が寄り添うように纏わりついている様に見える。実際は、黒髪黒眼だからだが。 「相変わらず、醜聞ばかり犯しているらしいな。刺されるぞ?」 血のような色の貴腐酒を傾けながらロシェルが囁く。 「お前なんか、また、何か拾ってきたらしいじゃないか」 ボトルを脇に抱え、貴腐酒の白を手酌でがばがば飲みながらそう返事をする。 「ふふん、お前の悪趣味と一緒にしないでくれ、香天」 |