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「一つ目の願いは、貴族としての地位が欲しいの。幾ら貴族制度が崩れてきたとは言ってもこの世界はまだまだ、成金の娘に厳しいわ。」
麗らかな昼の日差しの下、華やかなサロンでお茶会が始まる。 「エリザベート嬢が皇太子様のご子息をお救いになった話、お聞きになって?」 「エリザベート嬢って、あの華やかなお方ですわよね。其のお話、本当でしたのね」 「ええ、何でも毎年行かれる避暑地の方でお見つけになったのですって」 「あら、凄いですわね。今度から皇室の方々と避暑にお行きになさるというお話もお聞きしましたの。皆様、どうおっしゃってらして?」 「私はあまり存じ上げませんの。でも、他のお方はあまり良くは、ね・・・」 幸運過ぎる幸運に、ご婦人方の微笑みも、どことなくうらやむが故の影が漂う。 「代償は、この樹でかまわないかしら」 言って、エリザベート嬢は庭園に生えている樹を指す。 「ええ、かまいませんよ。果樹ですか、珍しいですね。このようなお屋敷に」 「昔、私がお父様にお願いして植えてもらったのですわ。ああ、そういえば、私、今度結婚する事になりましたの」 「其れは、其れは、おめでとう存じます。お相手は、バロア伯爵でしたね。相手があの方とはまた、風当たりが強そうですね。 あの今時珍しい貴族としての地位がありながら確固とした経営手段で財産を築き、精悍で麗しい容貌でひたすら人気のある方でしょう」 「その様な事、気にしませんわ。あの方が私をお選びになったのだもの。どんなに吠えても負けは負け、でしてよ?でも、良くご存知ですわね。やはり、魔術師だからかしら?」 何時になく上機嫌に微笑み、足元に来ていた白猫を抱き上げ撫でた。 森に囲まれた城の一室。石造りにペルシャ絨毯がひかれた部屋の中。 「面白い方ですね。林檎の樹を贄に出すなんて」 嘲笑しながら答えを返す。 「なかなか、小賢しいことだね。私たちがどちらに属する者なのかを試している訳なのだろう。あの様な女でも死後の世界は恐ろしいと見える」 「結局度どちらだと判別されたのでしょう」 「さあね。しかしながら、雪梅を可愛がってくれていて良かったよ。気を損ねるとあの子は何をするか判らないからね」 「彼奴は、我が儘ですからね。私とは見た目も対照的ですし、一緒に拾われて育った割には性格に差異がありすぎるますね」 溜息をつきつき、グラスに貴腐酒を注ぎながらそう酷評する。 「そうだね。お前は冷静に切れるタイプだよ、桜宵。ところで、蓮日はお利口にしているかな。此処には、もう慣れただろうか。あの子を拾って始めての帰宅だから心配していたんだ」 「大丈夫なようです。私にも懐いてくれていますから独りじゃないですし。唯、主様の居ない時に限って主様恋しがって鳴くのですが」 そう言って、桜宵が遣った青黒の視線の先には、燃え盛る暖炉の前で丸くなって転寝する向日葵色の子猫が居た。 「お前の拾い物を見にきてやったぞ。どこにいる」 目線の先に猫を見つけると大股で近づいていく。 「酔ってらっしゃいますね、公爵様」 「ああ、あの馬鹿者が。間違いなく嫌われたな」 其の会話のもと、怯えきった猫は暖炉に逃げ込もうとし、主様が慌てて指を鳴らし、自分の膝へと移動させる。 暖炉の前から一瞬のうちに空間移動でもされたのかあるじさまの膝の上に現れた子猫はよほど恐かったのか、主様にしがみつき懐に潜り込んで隠れてしまった。 「お前の所の新入りは人見知りが激しいようだな。大丈夫なのか」 陽気に的外れな感想を述べる友人に冷ややかな一瞥をくれてやると、主様は、 「水をかけて正気に戻してから帰してやれ」 と告げて猫を抱いたまま香天が出てきてのとは、別の扉から出て行った。それをみたて黒髪の青年は一度大きな溜息を吐き、状況把握の出来ていない主のご友人にお引取り願うために、水とばけつを取りに行った。 |