HOLLOW SPHERE





 廊下から沢山の機械音が聞こえる。 最近雨が続いているせいでリーウェが活発化し、城の所々をよく故障させている。たいした所で無かったり、メインコンピューターに通じる所だったり、被害の規模には差があるようだが。
(城を海洋付近に建てなければ良かったのではないかしら)
そう思いながら、僕は暇つぶしに読んでいた先祖の遺産である古ぼけた本を塵芥箱に突っ込んで、故障場所を調べようとコンピューターを立ち上げ中に入った。
今日では、コンピューターに意識を直接繋ぎ欲しい情報を3D画像として直に感じ捜す事が出来る。
機械には意味の無い発展だけれど。
人工生命体は、端末にそのまま身体を繋ぎ、即座に"ヴァーター"から頭の中に直接情報を送って貰う事が出来るので月覇にしか其の機能は意味をなしていない。
しかし、問題の箇所が今回に限って巧く見つからず探し回っていると、視界の隅を雪色が掠めた。
よく見てみると5、6歳の子供がどうにか入れる位の小さな扉だった。
この城の中を細部まで見てきたつもりだった月覇は、珍しく好奇心というものに駆られながら、その扉に手を掛けた。
身躯を屈めて部屋に入ると、そこは何も無い雪色 スノーホワイトの空間だった。
全ての色を覆い尽くす様な強烈な色彩 いろの中、ふと気配を感じて背後を振り向くと扉があったはずの場所から扉が消え、代わりに三人の人間が居た。 月覇が自分以外の人類 ひとだと思われるモノの出現に驚愕し声も出せずに眸を開いて凝視していると、其の中の一人がぼそっと呟いた。
「すげぇ色彩 いろ。こんな色の機械 アンドロイドも居るのか」
月覇は、人類 ひとと機械の区別も出来ないのかといぶかしみつつ訂正する。
「僕は機械じゃないです」
「・・・そのようだな。失礼なことを言って済まない。・・・それ位判れ、お子様」
右端に居た焦茶色の髪と碧の瞳を持つ人がそう謝罪した。
「本当に御免ね。桜色の瞳と銀色の髪を持つひとびとは絶滅したって言う先入観が在ったんでさ。 や、でもほんと見事な色彩 いろしてるねー」
一番年上に見える漆黒の瞳に青黒髪の人間が弁解する。
(人々とはどういう意味でしょう?)
「貴方達は何者ですか。城の機械 アンドロイドではない様だし何より人類 ひとに見えます」
この世界にいる人類 ひとは月覇独りの筈である。 この世界にも侵略者 テロリストというものはいる。 思考を与えられた機械 アンドロイド達がメインコンピューターに疑問を持ち逆らわない様に、初めから団結させる手段としてそうプログラムされた敵対者を作っているのだ。 此処は、メインコンピュータ"ヴァーター"本体がある場所だし不審人物の侵入には厳しいので、不審人物は這入れない様になっている筈なのである。
「うう、まあね。色々事情があったりするんだよねー・・・。 と、とりあえず自己紹介を先にしておこうかな。俺は鎖月って言う名前。年は二十八だよ。君は?」
「僕は、月覇です。年は・・・十三です」
「ふうん。やっぱり、覇の血族かー。ああ、俺様は、赭月って名前だ。 呼び捨てでかまわないぜ。俺様もお前のこと呼び捨てにするからな」
先刻月覇を見て派手だと呟いた人間である。
(金茶の髪と紅の瞳のこの人の方がよっぽど派手です。 僕が派手に見えるのは、色素が薄くて光が反射するからですもの)
「・・・我もか。麗月と云う。呼び方なぞはお前の好きにすればよい」
「鎖月さん、赭月さん、麗月さん、ですね。・・・貴方達は人類 ひとなのですね。 僕はもう、人類 ひとは僕しかいないと教わっていました。そして世界にはこの国しかないのだとも。 それは間違いだったのですね」
少なくとも、現在この国で月覇の外に人類 ひとは存在していない。十年前、月覇の両親が死ぬまではいたけれど。
「すげぇ世界論だな。俺らの存在丸無視か!!真実から言うと間違い、だぜ。まあ、お前の目の前にいることからも分かるだろうがな」
「こらこら、月覇に腹を立てちゃ駄目だよ。教わっただけなんだから」
鎖月が相槌をうって、ふと其の瞳に微笑を浮かべて月覇を見やる。一見地味な外見だが、雰囲気が華やかだ。 だけど、何処か剃刀の様に鋭いオーラが漂っている感が否めない。
(ばらばらな外見なのに、何処と無く似てる気がするのは同じ種族だからなのでしょうか。 僕も、同じなのかしら)
 
 ビーーーッ  ビーーーッ ビーーーッ
   厳戒態勢を促す警報がいきなり鳴り出した。
(暫くは、リーウェは襲って来ない筈なのに)
「ヤベッ、捕まったら殺されちまうぜ」
「・・・初めて潜り込んだのに反応されたな」
(この人達に反応したのですね。・・・会ってはいけない人だったのでしょうか)
「此処に可愛い秘蔵っ子が居るからだろうさ」
他の二人はひどく焦っているのに、鎖月だけは何故か余裕で月覇に質問している。
「ねぇ月覇、真実の世界について知りたくないかい? 今の暮らしが無くなってしまう可能性があるけれど君には知る権利がある筈だからね」
変化の無い退屈な今の暮らしを疎ましく思い嫌がっていた筈なのに、直に頷くことが僕には出来なかった。 鎖月の闇の様な漆黒の瞳が笑みを含んで、じっと見つめる。
「ある程度の覚悟が付いたら、此処へおいで」
「話を聞く位でそんなに重い覚悟はいらねえよ、気軽に俺らと遊ぶようなつもりで来たら良いさ」
「知識はあって困るようなものじゃない。何か有った時にお前を助ける筈だ」
三人が言うだけ言っ指を鳴らすと、いきなり姿がかき消えた。 回線を切るだけとはいえあまりの速さに吃驚して呆然としたが、此処にいても仕方が無いことに気づき月覇も帰ることにして歩き始める。今の時間だけで、生きてきた十四年より沢山の感情と情報を知ったと思う。 今まで、人と接触した事が無いので、基準がよく分からないにしても。
「夢を見ていたような気持ちです。・・・この事は知られない様にしなくてはいけないのでしょうね」
(続)
2005/12/07







          







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