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しかしながら、未だ大地は野の茂みも野の草木も生み出してはいなかった。 神は、まだ雨を降らせておらず、地面を耕す人もいなかったからである。 霧が地から立ち上って全面を潤していた。 神は地面の塵で人を形造りその鼻腔に息を吹き入れられた。 すると人は生きた魂となった。 そうして、神はエデンに、東の園にご自分が形造られた人を置かれた。 そうして、神は見て好ましく食物としても良いあらゆる樹を地面から生やさせ、 また園の真ん中に生命の樹を、善悪の知識の樹を生えさせた。 塵から出来上がったアダムは、いまだ成長途中の様な頼りなげな身体をしていた。 そう、動物で例えるならばまだまだ自分独りで生きられぬ年頃であろうか。 その声は、まだ細く高く頼りなげであった。 その肢体は、白く細く華奢であり力仕事に堪えられそうも無かった。 また、その感性も知識も足りなかった。 その為、神は自分の力の一部を切り離して地上に遣わし物事を教える事にした。 生きていく知恵と世界に関する知識・・・この世に関するその全てを。 「神よ。コレは一体何なのでしょう?」 そっと、紅い果物を目の前に掲げ神に問う。 「少し酸いかも知れぬが、中の実は食べられる。試しに齧ってごらん」 その言葉に中の紅い小さな実を取り出して恐る恐る口をつける。 紅く柔らかい唇の間にその紅く硬い実は吸い込まれていった。 そして、そっと白い歯がその紅い実を齧る。 「中に何か硬いものがありますね」 「種だよ。そこいらに落としておくと良い。 彼らはそれで増えるのだ。さあ、この実にはなんと名前をつける?」 「そうですね。石榴と名付けます。この実は石の様な見た目をしているから」 「ふむ、良い名だ。では、そこにそれを置いて向こう側を見て回ろう」 こうして、彼らは園の中にある全ての樹に名前を付けて回った。 楽園の中心にあるただ一本の樹を除いては。 「神よ、あれには何故名前をつけないのですか?」 アダムが不思議そうに尋ねる。 其の蒼い目は、好奇心できらきらと輝いていた。 「もうあれには、名前がついておるのだ。私が唯一つけたもの」 穏やかに樹を眺めながら語る神の目には狡猾な光が浮かんでいた。 「なんと言う名前なのです?」 二人で樹が良く見える丘の上に座り。眺めてみる。 「善悪知識の樹という名前だ。あれにだけは、触っても食べてもいけない」 その樹は、碧の葉が生い茂り紅く熟れた実がたわわになっていた。 其の幹は太く、二人が並んでも抱えきれないだろう程であった。 「何故ですか」 目に麗しく、舌に甘かろう其の樹にも実にも触ってはいけないとは。 慈悲深く恵み深い神とも思えぬ言葉であった。 「私が名前をつけたからだよ。 お前が名前をつけたならばそれはお前に所属しお前のものだ。 しかしながら、あれは私が名前をつけたもの。私に所属する。 決して手を出してはいけないよ、アダム」 にこやかに微笑んでアダムは神に誓った。 「はい、決して近づく事はいたしません。貴方に誓って」 (be continued) 2006/01/07&2006/01/20 |